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〈時間貯蔵庫〉はどこに

 論文(卒論・修論)提出ラッシュは一段落した。 心配されていた何人かの学生も皆(M4の彼も)無事に提出したようだ(だが、わが専攻の「年中行事」はこれからがヤマ場のような気がする。絶対一波乱あると、そう確信する。まだまだ目が離せない。←以上、コアな内輪ネタ)。
争いを終え、平静を取り戻した演習室は、紙屑だの何だので散乱している。
それを毎年片づけるのは事務補佐員である自分の役割である。

 それも一段落したところで、森岡孝二『働きすぎの時代』(岩波新書、2005年)をよむ。いろいろと思うところがあって手に取った一冊である。
 この本で森岡氏は、「世界の労働時間は一九八〇年代以降、それまでの減少傾向が止まり、再び増大に転じつつある」と指摘している。本書のタイトル通り、いまや世界規模で「働きすぎの時代」に突入しているというのである。
 では、なぜ「働きすぎの時代」になってきたのか。著者は、その要因を現代の高度資本主義の四つの特徴から把握しようとする。①「グローバル資本主義」、②「情報資本主義」、③「消費資本主義」、④「フリーター資本主義」の四つである。

①グローバリゼーションが進む中で、途上国をも巻き込んで世界的に競争が激しくなり、日本やアメリカやヨーロッパ各国の労働者が、中国その他の途上国の労働者と賃金の引き下げと労働時間をめぐって直接に競争させられ、結果として、賃金引き下げと労働時間の延長に迫られている。

②情報通信技術の発達が、新しい専門的・技術的職業を生み出す一方で、多くの部面で業務を標準化するともに単純化し、雇用形態の多様化と業務のアウトソーシング(外部委託)を容易にして、正規雇用の多くを非正規雇用に置き換えることを可能にし、その結果、雇用を不安定にしている。
 そればかりか、パソコン、携帯電話などの新しい情報ツールは、仕事の時間と個人の時間の境界線を曖昧にし、経済活動のボーダーレス化や24時間化を促進することによって、むしろ労働者の仕事量を増やしている。

③生活水準が向上し、マスメディアが発達した今日の大衆消費社会では、人々は絶えず拡大する消費欲求を満たすためにも、消費競争のなかで自己のアイデンティティや社会的ステイタスを表現するためにも、より多くの収入を得ようとして(あるいは賃金のより高いポストに就こうとして)、より長くハードに働く傾向がある。それとともにコンビニや宅配便に象徴される、利便性を追求するサービス経済の発展が消費環境を変化させ、過剰なサービス競争を生み、働きすぎの新しい要因をつくりだしている。

④日本では1980年代の初めから、労働分野の規制緩和と労働市場の流動化が進められ、若年フリーターだけでなく、中高年も含めて、アルバイト、パート、派遣などの非正規雇用労働者が増加してきた。その結果、雇用形態が多様化するとともに労働時間が二極分化し、週35時間未満の短時間労働者が増える一方で、絞り込まれた正規労働者のあいだで週60時間以上働く長時間労働者が増え、30代の男性を中心に正社員の働きすぎが強まってきた。

 この四つの視点から、日本における過剰労働の現状が分析される。それは、フリーターやニートの問題、あるいは労働時間や賃金をめぐる男女格差の問題に、重要な示唆を与えるものである。
 そして(この本の大きな特徴であるが)、結論部において著者は、「労働時間を短縮し、過重労働をなくすために―働きすぎ防止の指針と対策」を示し、労働者、組合、企業、行政に訴えている。末尾には、「全国労働局・労働基準監督署一覧」「雇用・労働・労働時間関連サイト一覧」が掲載されている。
 
 著者が示すような社会の現状に対し、そのような「働きすぎ」の社会に人材を送り出す側にいる教育関係者はどういうスタンスをとればいいのだろうか。教育学部にいる人間としては、同書を読んでいてそのような問題を考えざるを得なかった(森岡氏も、大学教員として学生を社会に送り出すという自身の立場を、同書執筆の一つのきっかけとしている)。
 今年の卒論・修論には、進路指導(職業指導・キャリア教育)をテーマとするものが複数あった。彼(女)らは、自らの主観的願望から発せられた切実な問題認識をして、そのようなテーマを設定したのだろうと推測する。

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