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実験装置を拵えるのは難しい

 正月休みも明け、昨日からさっそく大学で事務補佐の仕事。
この時期、自分の所属学部は慌ただしい。卒論・修論の提出時期だから(自分は「年貢の納め時」と呼んでいる)。
さっそく、S津君から卒論指導の依頼を受ける。気がづいたら、5時間も付き合っていた。彼をさらなる混乱に陥れてやった(イタバシさんと共謀)。ああ、何て優しい先輩なのだろう。彼は昨夜一睡もできなかったらしい。
 彼が犯した過ちは、教育実践の分析が簡単にできると踏んでいたことである(※)。しかし、そんなのは、第一線の研究者だって難しい。
 実践を論じる上で難しいのは、どのような分析視点をたてるか(=実践のどこに着目するか、どういう切り口でみるか)ということである。いわば、実験装置の組み立てから行わなければならない。その視点に立つことによって、肉眼では見えない、実践がもつ構造(顕微鏡に喩えれば、物質の構造)が鮮やかに見えてくるかどうかが問題のはずだから。しかし、自前の実験装置を拵えて、それをやろうとなると、きわめて難しい。
 所与の装置を使うにしても、それを使いこなすのは、顕微鏡をのぞき込むのと同じようには行かない。自前にしろ、借り物にしろ、実験装置は自分の脳内に自力で拵える以外に途はない。そして、取扱説明書(理論)を書いているのは、デューイ(「経験」という概念装置の説明書)やペスタロッチィ(「直観」という概念装置の説明書)だったりするのである。彼らが見たのと同じ「眼」でもって、眼前の実践を見てみる(「彼らが今の時代に生きていたらどう見るだろう」と考えてみる)ということが、どれだけ至難の業であるか。それだけで、一つの研究として成り立つ。
 実践を分析するためには、それに使う実験装置(分析視点、理論)の機能を理解するだけでなく、実際に使いこなせるようにならなければならない(あたりまえだが、それは実験の前段階にすぎない。自然科学系の研究で、実験装置の説明で考察を片づけてしまうものなどないだろう)。そうしなければ、いざ装置を使っても実践の重要な要素は見えてこないだろう。(誰々の)理論そのものを文字として理解する(いろいろな学説に通じている)だけでなく、自分の「眼」を通して実験装置の効果を実際にテストしてみる(=実習する)、というかたちで知る。そうした理解を経てはじめて、実践の分析を開始できるようになるのではないか。これは自戒でもある。

(※)とはいえ、彼ばかりを批判することはできない。彼の依拠する研究というのが、いわば言葉遊びに堕したものばかりだからである(「こいつは・・・」と読んでびっくりした。役人が書いたものが多い)。例えば、進路指導において「自己をみつめる」とか「生き方を学ぶ」とかいったものが具体的にどのような対象を指していうのかが、文章からはまるで読めない。いろいろな職業について調査するとしたら、その活動がどのようにして「自己実現」や「生き方」ということと結びついてくるのか。その学習・思考のすじみちを、具体的な実践事例をもとに説明してほしいのに、彼らは単に活動項目が書かれた表(紙キュラム)を提示するだけか、誰々はこう言っている(から「自己をみつめた」「生き方を学んだ」ことになる)という形で、お茶を濁してしまっている。

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教育学」カテゴリの記事

コメント

教育実践って一見、具体的で身近で、明快なような気がしてしまうんですよね。
けれどその本質は、どろどろ、混沌としていて、とらえどころがない。
だからその分析も簡単にはいかない。

でも、簡単って思ったことのある人とか安易にやっている人って多いようにも思います。
後輩さんは最初気づかなかったにせよ、指摘された後悩んだわけで、その悩むって行為が大切なんじゃないかなと思います。悩まず、迷わずに進んでいく研究はこわいです。

修士論文1章(を修正した一論文)が紀要に載ることになりました。タカキさんの論文と交換してみたいものです(笑)。

投稿: ゆう | 2006/01/07 01:47

ゆうさん、明けましておめでとうございます。
>タカキさんの論文と交換してみたいものです(笑)。
私なんかの(汗)でよろしければお渡しします(連絡先を教えていただければ)。
今用意できるのは、成城小の修身科について論じた紀要論文と、『ジェンダーと教育』(東北大COE叢書)に書いた小原国芳に関する論文といったところです。富士小に関しては、現在執筆中で6月ごろに抜き刷りができる予定です。
 
ゆうさんは、近藤益雄を研究されてるんですね。
戦前から生活綴方、北方教育の運動に関わったほどの人物ですから、その研究論文には関心があります(笑)

投稿: タカキ | 2006/01/07 18:44

あけましておめでとうございます。
今やたら長いテストメールを送りました。
迷惑メールじゃないので、消さないでくださいねぇ^^

投稿: ゆう | 2006/01/08 01:10

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