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「ゆとり教育」批判の真意がみえた

 月曜日に行われた仙台市の成人式で、市長殿が何かおっしゃったご様子。
新聞が伝えるところによると、その内容は以下のとおりである。

「「ゆとり教育の犠牲者」 成人式で“梅原節”」『河北新報』、1月9日。

 「皆さんは、ゆとり教育の犠牲者」。8日開かれた仙台市主催の成人式で、梅原克彦市長は自身の教育観を交えた強烈なメッセージで、新成人の門出を激励した。
 会場の市体育館(太白区)には、約5200人が足を運んだ。祝辞に立った梅原市長は「言いたいことはたくさんあるが、市長として一つ二つ伝えたい」と切り出した。
 日ごろ、ゆとり教育を率直に批判している市長。新成人をその「犠牲者」と表現し、「でも、人生は長い。たまにはテレビのスイッチを切って、書に親しんでほしい」と助言した。
 得意の国内外の情勢分析も披露し、「試練の時にある。いちいち例を挙げるまでもないが、社会の有り様は危機的状況だ。解決できない問題もあるが、新成人とともに、市民の幸せのために頑張りたい」と強調した。
 会場では、「梅原節」に聞き入る新成人もいれば、友人とのおしゃべりや携帯メールに夢中な人も。市長は諭すように「21世紀は、若者の努力や志が求められる時代。日本の底力が試されていることを自覚してほしい」と呼び掛けた。

「ゆとり教育」→「学力低下」(?)→「新成人は犠牲者」という思考を、上記文章から読みとることができる。「たまにはテレビのスイッチを切って、書に親しんでほしい」といっている市長自身が、テレビなどを通して流される「教育不信」のステレオ・タイプにまともに影響を受けているという皮肉な事態である。
 改めて言うまでもないことだが、「ゆとり教育」を批判する以上、
①「ゆとり教育」とは、具体的にいかなる事態を指しているのか。また、その「犠牲」とはいかなる事態か。
②「学力低下」の事実はあるのか。
③両者の間に因果関係はあるのか。
といった具合に、一つ一つの問題について慎重な検討を行わなくてはならない。そして、この問題に対し、研究者の間で一致した見解は得られておらず、教育学者となると、以上のような単純な見解はみない(※)

 市長の挨拶から顕著に読みとれるのは、学校で何を教えるか・学ぶかは実はどうでもよく、大人の指示に従う従順な態度が重要だ、というきわめて素朴な態度主義への思惑である。「テレビを消して本を読め」という若者の学習態度の改善を促すメッセージがそれをよく表している(1月9日の会見から読みとれるように、市長が問題にしているのは一部若者の「態度」のほうであるといえよう。でも、それは「ゆとり教育」のせいなのか?)。
 この「知育が重要」と言いながら、その実「知育に向かう態度」の重要性を説くという教育論は、かつては「知育偏重」論―大雑把にいえば、青少年の規範意識の低下は知識教育に偏ってきたからだ、これに代わってこれからは「徳育重視」が必要だ、という趣旨のもの。しかし、「偏重」といわれるほど本当に知育が重視されてきたのかどうかは疑問―と結びついており、歴史的に根が深い問題傾向である。現在は「知育偏重」から「知育軽視」に関心が移ったようだが、根本にある問題意識(「愛国心の涵養」などの徳育重視への思惑)は変わっていないようである。
 また、従順な「態度」は秩序・厳粛性を保つ管理体制―その一例としての儀式、日の丸・君が代問題がよい例―とセットで説かれることが多いが、市長が公式的な行事としての成人式にこだわる(「梅原・仙台市長:成人式の秩序と厳粛性が向上/宮城」『毎日新聞』、1月10日朝刊)のも、そのように理解すると納得がいく。だが、秩序・厳粛性を保つために新成人・若者を「犠牲者」などと評価し、彼らを低く位置づけることで式の権威性や秩序の正当性を引き出そうとするのであれば、いただけない。


(※)
 ①について。「円周率はおよそ3」を例にとると、表面的な文字に踊らされて、どのような思考のプロセスを通して円周率を理解させるか、といった実践の事実には眼を向けない短絡的な批判は避けたほうがよい。実際、子どもたちに教えてみればわかると思うが、「円周率は3.14」と“覚えさせる”ことはできても、「円周率は3.14」と“理解させる”ことは困難を伴うはずである。そして、“覚えさせてはいけない”とはどこの誰も言っていないはずである。
 ②について。よく国際的な学力テストであるPISAやTIMSSでの日本の順位低下が指摘されるが、これをめぐる評価については以前のエントリ(「『ゆとり教育』見直し、そのビジョンは」、2005年4月8日)を参照。点数が上がったか下がったで一喜一憂するような安易な評価は避けたほうがよい。それより、テストの結果を通して、今後どのような展望の下に知識教育を展開していく必要があるのかを考えたほうがよい(何が学ばれていなかったのかの検証、そしてどのような知識をどのような方法で教えていく必要があるのかの構想)。
 なお、管見の限り、問題となっているのは「学力低下」ではなく、「学力の二極化」と言われる事態である。

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