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アジアの高校がめざす「学力向上」

 先週15日(土)は、国際シンポジウム「学力向上を目指すアジアの高校教育」に参加してきた。
日本の教育論議の現状に照らして、非常にタイムリーな企画であった。
お招きしたのは、韓国・台湾・シンガポールの三か国の高校の先生方(高校教育関係者を招いての国際シンポジウムというのは、かなり独自)。
いずれも(形式的・順位的な意味で)日本より「学力」が高いとみられている国々である(PISAでは韓国との比較しかできない。TIMSS2003で順位を把握していただきたい)。
そして、教育面での共通性がみられながら(テスト中心、大学入試、高学力)、グローバリゼーションの下、共通の問題(就職難、学力向上へのプレッシャーなど)にそれぞれ異なる戦略で立ち向かっている。
 自分は会場係でシンポジウムの内容を集中して聞くことはできなかったが、O川先生の基調報告を拝借すると、各国の特徴(の変遷)は「ナショナリズムと学力向上」を共通の前提として次のように区別される。

・シンガポール 
  国民教育→幅広い学力観(脱点数至上主義)
・台湾
  「台湾人」形成→多文化への配慮(底上げ)    
・韓国
  国家の威信→世界トップ(上位層の上昇)

「どの国も、日本の教育論議に突き刺さってくる問題を提示してくれている」。
それが、自分の第一の感想である。
シンガポールについては「日本が目指し、そして挫折しかけている教育の行方」をみることができるし、韓国の「超エリート教育」政策は、一部日本の教育論者が興味を持ちそうな内容であるし、また「学力格差」が問題視されている日本の現状からすれば、原住民への対応に取り組む台湾の事例もまた大いにヒントを提示してくれるものであると。
もちろん、まだまだわからないことがたくさんある。
例えば、韓国の先生の報告を聞いたときは、ヘルマン・ヘッセ『車輪の下』が頭をよぎったし(生徒は全寮制の好待遇のもと平日約12時間の猛勉強だから、生活指導面でのケアがどうなっているのか知りたかった。日本以上の学歴格差社会といった逼迫した現状との関連も気になる)、シンガポールではなぜ日本が挫折しそうな方向に積極的に向かおうとしているのかが知りたかった(小さい国家で教育予算が高いから教師や学校をめぐる環境が整いやすいのか)。

また、いずれの国も、「学力vsゆとり」といった貧困な二項対立の枠組みの上で議論などしていない(日本と同様の問題状況も一方ではあるのだろうか、そんな地点で停滞などしていない)。
それが第二の感想である。
学力(適正な競争)も大事だし、人格も大事だし、修学支援も大事なのである。
とくに、シンガポールの先生の報告は日本の教師の目を覚まさせるに十分なものだった。
同国教育省が2005年に打ち出した教育スローガンは、“TLLM―Teach Less, Learn More”だった。
教師がそれほど教えないということなのかと解釈してしまいがちだが、報告者の先生は「そうではない」と再三注意を促していた。
問題は、学習者を参与させることによる学力向上だと(「学力」か「ゆとり」かではない)。
そして、私たち現場の教師は「なぜ教えるのか」そして「何を教えるのか」という点について価値判断をし、教授学習の質的転換を図ることをめざしていると述べていた。
日本の学力政策が「どう教えるか」ということに凝り固まっていることを考えれば、スタンスの違いは明白である。
“何を学ばせ、評価するのか”という根本的な面を議論の対象としているのである。
旧来点数で計ってきたものだけを尺度とするのではない。
だから、日本でいえば「総合的な学習の時間」で学んだことをセンター試験の評価(点数)に盛り込むような、そんな対策もとられているようだ。
さらに、そのような知の質的転換を通しながら、旧来の点数的な学力も〈結果的に〉向上させようとする思惑も読みとれた。
そして、小国家で頭脳流出が問題とされるだけに、実は愛国心の涵養とも以上の動向が結びついているということも。

 そして、以上の論点は、大学が入試に際してどのような評価を行うべきなのかという問題―教育の接続、高大連携といった議論―に連なってくる。
上記三か国では、いずれも高等教育が拡大している傾向にある(何を「高等教育」に含めるのかは単純ではないが)。
これは日本と対照的である。どの国も教育の接続をさまざまなかたちで議論している。
その点で、日本と各国ではかなり温度差があるのではないかというのが、第三の感想であった。

日本の学力論議を相対化してくれる、きわめて有意義な機会であったと思う。
教育再生会議にみられる教育論議の低次元ぶり(戦略のうすっぺらさ)が、より際立って見えてくる。
とても恥ずかしくて、ゲストの先生方には教えられなかったよ。

※自分の理解に甚だあやしい部分もあるので、ヤギーさんあたりにいろいろ当日の補足をしていただけると助かります~。

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