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「待ってました!」「たっぷり!」

 「話芸から学ぶ説得の技法―浪曲と教育の接点を探る―」と題するセミナーに、お手伝いをかねて参加してきた。「現代教育科学の最前線」と題する研究シリーズの第1回である。
初めて、“生で”浪曲(浪花節)を聴いた。
伝統の口誦芸能、その「語り芸」はわれわれを大いに魅了してくれた。
一つの演目に30分ほどかかるわけだが、素人からみれば、あの「語り」(音楽)をつっかえずにこなすだけでも大変なはずなのに、声の強弱や身振り手振り、そして絶妙の「間」で聞き手を惹きつける、その鍛え抜かれた技術は圧巻である。
そして、そのような卓越した「語り」の技術があるからこそ、聴く側もその「語り」の内容を脳裡に焼き付けることができるといえよう。
相手に何かを伝えるということの大変さを、浪曲を通して再認識させられた。
ちなみに今日の表題は、浪曲を聴く際の聞き手の約束事である。
 
 今回のセミナーの趣旨は、次のようなものであった。
「西洋教育史の歴史を振り返ると、教育という営みは、「話-術」とも言うべきレトリックと密接なつながりをもっていました。教育もレトリックも、たんに話しの内容を理路整然と語るだけではその役割を果たしません。聞き手の心を「動かし」、「説得」するためには、語り手と聞き手とのダイナミックな関係を構築することが必要です。このような関心から見た場合、我が国における「話芸」の伝統は、教育学にとって貴重な資源になりうるものです。……」
①語り手、②聞き手、③語りの内容(知識・情報)のうち、われわれは③には力を入れてきたかもしれないが、①と②の密接なつながりについてはほとんどかえりみてこなかった。
いまや、相手に「話す」「語る」といえば、プリントやパワーポイントでの発表が主流のご時世。テレビにはひんぱんにテロップが出る。
しかし、われわれはもっと自分の身体(声や身振り手振り)を通して、聞き手の心を動かすという点への視座をもってもいいのではないか。
お経の内容がいくら正しくても、それを語るお坊さんの読経が不十分ではありがたみは湧いてこないように、(③内容が充実していることは大前提だが)たとえ③が十分で正しいものであっても、①語り手の技術が不十分では、必ずしも②聞き手には伝わらない―。
以上が、教育にも連なる、セミナーの大きなテーマだったように思う。
 
 ここから、すぐに思い浮かぶのは『教師のためのことばとからだ考』などで知られる竹内敏晴氏の「からだ」論である。
例えば、「わたし」が「あなた」の話を「聞く」というとき、それは単に話されたことばの文章内容だけを抽出して取り込むということではない。
それは、話しかける「あなた」の息づかいや、ことばを探して立ち止まったり、もどかしく手を振ったりする「からだ」(身動き)全体を「わたし」が受け取ることを意味する。
逆にことばを「話す」というのは、相手を動かし変えようとする「からだ」と心の試みだということになる。
「情報」が人と人との関係を捨象して、言語=文章化し抽象化した意味内容のみを伝達する機能である―情報は受け手を特定しない、交換性をもつのに対し、「話しことば」は「じかで、たった一回きりの、文内容を越えたなにかであり、からだからからだへ響きあい、共鳴し反撥すること」として対比される。
竹内氏はそのような視点から、「わたし」を疎外して「情報」のみを抽出しようとする情報社会の構造的動向に対する「からだの反乱」を説こうとする。

 学校教育がまさに「わたし」を疎外して「情報」のみを扱うものであるならば(例えば「学力テスト」といったかたちで)、「話芸」「語り芸」などの日本伝統の「わざ」は、今の教育の問題状況を変革するヒントを提示しているのかもしれない。
つまり、教師の教育技術も、子どもが学ぶ知識もそれ自体が具体的文脈から独立して存在するのではなく、教師-子どもの全人的関係性や、「からだ」という媒体を通した「話す」「聞く」といった行為の過程=現象全体の中に埋め込まれているのだと(話芸のプロが聞き手の反応を敏感に読みとり、場の空気を換えようとする臨機応変な対応は、知識の文脈依存性をよく示していると思う。稽古だけで学べるものではなく、舞台という「場」でお客「聞き手」との関係を通じて初めて、それに習熟していくことができるのだろう。教師が子どもに教えることもまた然りである)。

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